みなさん、こんにちは!
この記事は「【検証】「問題文だけ読む」縛りで、令和3年度大学入学共通テストの国語を解いてみた」の、解き方解説第二弾になります。(検証結果と第一弾解説については、下記をご覧ください)
今回は、「小論文において、本文を読まずにどう回答したのか」を紹介したいと思います。
本文を読むことも大事だけど、「何を聞かれているのか」を理解することもすごく大事だから、是非参考にしてもらえると嬉しいな!
問題文を熟考する
今回の問題はこちらです。
問4:傍線部「妖怪の『表象』化」とは、どういうことか。その説明として最も適当なものを、次の①〜⑤のうちから1つ選べ。
① 妖怪が、人工的に作り出されるようになり、神霊による警告を伝える役割を失って、人間が人間を戒めるための道具になったということ。
② 妖怪が、神霊の働きを告げる記号から、人間が約束事の中で作り出す記号になり、架空の存在として楽しむ対象になったということ。
③ 妖怪が、伝承や説話といった言葉の世界の存在ではなく視覚的な形象になったことによって、人間世界に実在するかのように感じられるようになったということ。
④ 妖怪が、人間の手で自由自在に作り出されるものになり、人間の力が世界のあらゆる局面や物に及ぶきっかけになったということ。
⑤ 妖怪が、神霊からの警告を伝える記号から人間がコントロールする人工的な記号になり、人間の性質を戯画的に形象した娯楽の題材になったということ。
さて、検証では本文を読むことは禁止されていましたから、ここからなんとか正解をひねり出さないといけません。
そのためには、まずは問題文を熟読します。要はここで何を聞かれているのかを理解するということです。
問4:傍線部「妖怪の『表象』化」とは、どういうことか。その説明として最も適当なものを、次の①〜⑤のうちから1つ選べ。
今回の問題は、「「妖怪の『表象』化」とは、どういうことか」を聞いています。これは一体何を聞いているのでしょうか?
まず論文の中では、なにやら「妖怪」がテーマになっていることが分かります。そして、それが「表象化」したらしいです。
問題文で使われている「化」とはどういうことか?
ここで「化」という表現を使っていることに注目です。
例えば「液状化」というときは、それより前は個体だった状態があって、そこから液体状に変わったことを意味しますよね。
つまり、今回の論文でも、どうやら時とともに妖怪が表に現れてきた(変化していった)ことを説明していることが分かります。
しかし、妖怪を空想上の生物と考えると、元々存在していたわけではありませんから、この「表に現れてきた」というのは実体が見えるようになったというような話ではなく、「人々の意識の表に現れてきた」と考えるのが自然です。
元々妖怪は人が作り出したものですから「意識の表に現れてきた」という表現は、若干違和感を感じます。となると、
・妖怪を信じる人が増えた
・妖怪を身近に感じる人が増えた
といったような、「知ってはいたけど、改めて妖怪への感じ方が変わった」というような変化をしていると捉えるのが筋が良さそうです。
まとめると、問題は、
問4:「妖怪に関する人の感じ方が時と共に変わって、表に出るようになった」とは、どういうことか。
と言えそうです。
検証中だったから読めなかったけど、問題文にはきちんと「人間の支配下にあることがはっきりと刻印された記号、それが「表象」である」と表象の説明が書いてあるよ。問題文を読めていれば、もっと深い理解ができるね
事前知識をフル活用する
次に自分が「妖怪」に対して持っている情報を整理しましょう。
いろいろな書籍や小説、小論文などを読んだ知識から妖怪について知っている情報を思い出すのです。
自分であれば、下記の情報については既に知っています。
・妖怪というのは古くから日本にある概念
・海外では妖精やおばけなどといった形で表されている
・主に当時理解できない現象などについて、人間でも理解できる存在として使われてきた
例)落雷 → 雷神の仕業、空中の真空状態により発生する切り傷 → かまいたち…
・昔は恐れている人が多かったが、今では信じてる人のほうが少ない
こういった情報は、あればあるほど有利になります。
問題文と選択肢だけに注目するのではなく、まずは自分が知っている情報をきちんと使えるかどうかも大事です。
ただし、このときに自分の解釈や思いは入れないように注意してください。
そういった自分なりの解釈を入れてしまうと、知らず知らずのうちに出題者が聞かれていることに答えるのではなく、自分の中で自分だけにしか通じない答えを作ってしまうからです。
あくまで聞かれているのは「小論文に書かれていることに対しての回答」だから、自分の思い込みで答えると、正解は難しくなるよ(特に難易度が高い問題の場合)
選択肢を熟考する
それでは、各選択肢を見ていきましょう。
※ ただし、本文を読んでいない状態での考え方なので、「もし、本文にこう書いてあったら正解(あるいは間違い)になりうる」という別視点についても、[注意]の欄で記載しています。
選択肢①:どのように変「化」したのか
1つ目の選択肢はこちらでしたね。
① 妖怪が、人工的に作り出されるようになり、神霊による警告を伝える役割を失って、人間が人間を戒めるための道具になったということ。
これは、すぐに間違いだと感じました。なぜだか分かりますか?
なぜなら、妖怪自体が「人間が作り出したものだから」です。
先程見たように問題文にある「化」というのは、何かの状態から何かの状態へ変化していることを示します。
もし「人工的に作り出されるようになった」というのが「化」が表していることだとするならば、妖怪は以前までは人工的に生み出されていないはずです。
妖怪は自然に生まれた
→ 人工的に作り出されるようになった
となって初めて「化」が成り立ちます。なので、恐らくこれは正解では無いと考えました。
注意点
ただし、「人工的」なのは一緒だとしても、その生まれ方が異なることを指しているケースもあります。それは、次のようなときです。
妖怪は自然現象など「人間の意図が入らない現象」を説明するため人工的に作られた
→ 「最初から人間が明確な意図を持って」人工的に作られた
例としては、子供を寝かしつけるために、親が「夜9時をすぎると、おばけがやってくるよ!」などというケースですね。
このケースが本文で出ている場合は、正解になりえます。
選択肢②:「記号」とは何を差すのか
続いては②の選択肢です。
② 妖怪が、神霊の働きを告げる記号から、人間が約束事の中で作り出す記号になり、架空の存在として楽しむ対象になったということ。
実は、こちらは①の[注意点]で述べた内容と重なっています。
昔は、「妖怪」という存在が人間の理解の及ばない出来事は神や霊などの仕業とされており、それを表す媒体として扱われていました。
けれども、今では「架空の存在」として、恐れる対象から楽しむ対象になっていると思います。
「記号」という言葉が一見すると何を言っているかわからなくなり厄介ですが、「記号」というのは、英語で略すと、シンボルやサイン、マークのことです。
つまり「象徴」と置き換えて読むことで、大分意味は通りやすくなると思います。
今までの内容と事前知識を踏まえると、これは正解にかなり近いと判断しました。
注意点
とはいえ、これが不正解の可能性もあります。
なぜかというと、「神霊の働きを告げる」のところと、「人間が約束事の中で作り出す」の真偽が一切わからないからです。
自分の知識では、妖怪が「神霊の働きを告げる」ものだったのかどうかわかりませんし、「約束事」の意味もわかりません。
選択肢の中で出てきていますから、恐らく文中にも「約束事」を差す内容があるとは思いますが、それがこの問題で聞かれている意図で使われているかどうかを確かめる必要がありそうです。
今回は検証のため、本文は読めなかったけど、実際に見ると「近世において、「記号」は人間が約束事の中で作り出すことができるものとなった」という記載があるよ!
選択肢③:どの時間軸での変化か
③ 妖怪が、伝承や説話といった言葉の世界の存在ではなく視覚的な形象になったことによって、人間世界に実在するかのように感じられるようになったということ。
この選択肢はかなり簡単です。恐らく間違いでしょう。
ダウトなのが、「人間世界に実在するかのように感じられるようになった」のところです。これは事前知識としての自分の情報と真逆のことです。
ただし、これが例えば、平安から室町のように、現代よりもかなり遠い過去の中での歴史の移り変わりの中であれば、正解になる可能性もあります。
いままでは「口だけで伝えられていた内容が、紙に書けるようになったことで当時の人にとってリアリティを増した」という説です。
しかし、実は次に出てくる「問5」の問題文を読むと、大きなヒントを得られます。
(i) Nさんは本文の①~⑱を【ノート1】のように見出しをつけて整理した。
(中略)
・日本の妖怪観の変容(⑩〜⑱)
・中世の妖怪
・近世の妖怪
・近代の妖怪
これを見ると、この小論文では、鎌倉・室町時代から太平洋戦争集結ぐらいまでの間の妖怪に対する認識の変化について書いていることが分かります。
ですから、先程の説は成り立たず、この選択肢は不正解だといえます。
注意点
正解となりうる場合は、先程見たように、もっと過去の時代における変化を述べた場合です。
とはいえ、それも否定されているので、正解にはやはり遠いと言えますが、それでも完全に不正解かどうかは本文を読まないとわかりません。
選択肢④:「あらゆる」「自由自在」とまで言っていいのか
次の選択肢はこちらです。
④ 妖怪が、人間の手で自由自在に作り出されるものになり、人間の力が世界のあらゆる局面や物に及ぶきっかけになったということ。
このような選択肢を見たると、自分は心の中ですぐにアラートが鳴ります。それは「あらゆる」「自由自在」という言葉が入っているからです。
他にも「完全に」「すべてにおいて」なども、同じく要注意単語です。
なぜかというと、こういった言葉は「他の事象を全て否定する」ことが多いからです。
例えば「あらゆる鳥は飛べる」といった場合、これは本当に正しいのでしょうか?いえいえ、私達はペンギンやダチョウの存在を知っていますよね。
たとえ 99% に当てはまることであっても、それ以外の存在がいるのならば、上記の文は正しくないのです。
とはいえ、粗捜しにならないようには注意してください。
例えば「あらゆるりんごは食べられる」という命題に対して、「いや、腐ったりんごや毒を入れたりんごは食べられないだろ!」としてしまうのは、ただの揚げ足取りです。
ここで述べている「りんご」がどの範囲を指しているのかを正確に理解した上で、その命題のなかで正しいかどうかを考える必要があります。
今回の「あらゆる」が果たして言いすぎなのかどうか、それは本文を読んで確かめるしかありません(ただ、今回の検証では本文を読むことはできませんけどね(笑))
しかし、ここで②と④の選択肢を比較してみると、面白いことに気付きます。
その部分を抜き出してみますね。
②:妖怪 = 人間が約束事の中で作り出す記号
④:妖怪 = 人間の手で自由自在に作り出されるもの
そうです、両者はお互いに矛盾しているのです。
③では作り出すためには「約束事」があると述べていますが、④は「自由」に作れると言っているからです。
「あらゆる」「自由自在」にが言い過ぎな感があること、そして②のほうが正解に近いことを考えると、④は選択肢から外しても良いと思います。
注意点
逆に言うと、②が異なっている場合は、④が正解である可能性は高くなります。
もし妖怪に対する認識の変化の範囲が現代にまで伸びていた場合、正解である可能性はさらに高まりそうですよね
(妖怪ウォッチやポケモンなどを広義な意味での妖怪として捉えるならば、まさに自由自在に作り出しているわけですから)
とはいえ、選択肢③の考察で見たように、変化の期間に現代は含まれていませんから、正解である可能性は低いとは思います。
選択肢⑤:「あらゆる」「自由自在」とまで言っていいのか
最後の選択肢がこちらです。
⑤ 妖怪が、神霊からの警告を伝える記号から人間がコントロールする人工的な記号になり、人間の性質を戯画的に形象した娯楽の題材になったということ。
順番こそ違えど、①、②とかなり似通っていますね。
違うのは、後半の「人間の性質を戯画的に形象した娯楽の題材」の部分です。なので、そこを重点的に見てみましょう。
ここで引っかかるのが「「人間の性質」を表す」というところです。
よくよく考えてみると、知っている妖怪で「人間の性質を表している」ものが思いつきませんでした。
河童、かまいたち、雷神、枕返し、鬼、海坊主・・・中には人間の無意識の行動によるものを表していることもありますが(例:きつねに化かされた = 記憶違いなど)、性質とまでは言えない気がします。
というわけで、これも不正解かと思います。
注意点
この選択肢の正誤は事前知識によって判断したので、もし人間の性質を示す妖怪が本文中で触れられていれば、正解となりうる選択肢です。
あとは「娯楽として」の部分も書かれているかどうかを要チェックしたいですね。
正解は②番
というわけで、今までの内容をまとめると、第一候補の正解は②、次点で①か⑤といったところですかね。
ちなみに正解は②でした。
ちなみに自分は②と⑤で迷って、間違えました(笑)
「人間の性質」に対しての考察が足りてなかったのが原因です。
まとめ:今回のポイント
以上、見てきましたが、いかがでしたでしょうか?今回のポイントをまとめると、このようになります。
①:問題文の意味をしっかり理解する(単語自体が持つ意味もフル活用する)
②:自分の持っている知識を(独りよがりにならないように)最大限使う
③:変化を聞かれている場合は、聞かれている変化が起きている期間を捉える
④:選択肢同士を見比べる(選択肢問題のみで有効)
⑤:もし「これが正解なら/不正解なら」の両方の視点で精査する
実際の試験では時間がなくて、なかなか難しいと思います。
けれど、解き直しなどのときには、こういった思考をして一つ一つの問題に取り組むことで、
「なぜ自分は間違えたのか。
なぜ正解がこれで他の選択肢が間違いなのか。
次正解するにはどういった点に気をつけなければならないのか」
を自分の言葉で説明することができます。
これができれば小論文は恐るるに足りません。是非この力を身に着けてほしいなと思います!
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