みなさん、こんにちは!先日こんな記事をブログに書きました。
前回は全体的な話しか出来なかったので、この記事では、改めて具体的な例を紹介したいと思います。
今回は「日本の石油輸入」について、「地政学」の観点から見ていこうと思います。それでは、よろしくお願いします。
地政学とは
まず、地理情報単体では意味がありません。
みなさんも登山をしようと思ったときに、傾斜が10%とだけ聞いても、その数字情報だけでは、いまいちピンと来ないとでしょう。
けれど過去に傾斜が5%の坂を登った経験があって初めて「うわ10%か・・・それ相当急勾配じゃん。辛いな」と判断出来るわけです。
このケースでは地理情報と自身の経験を結びつけて、有益な情報に変換したわけですね。
今回紹介する地政学という学問では、地理情報と政治情勢を結びつけて有益な情報に変換します。
色々な定義があるのですが、重要なのは「地理的情報を元に政治情勢を観察している」ということです。・・・ちょっとむずかしいですね(笑)
戦略ゲームが好きな人は分かるかも知れません。例えば「信長の野望」などのストラテジーゲームにおいて、ある土地を占領するには、そこまでのルートや地形がとても大事です。
また土地を守る側になったときにも、どのルートで敵は攻めてくるのか、そのルートで攻めてくるときには、どれぐらいの日数がかかるのか、などが重要な情報になります。
具体的な土地占領だけでなく、資源の輸出/輸入の観点も大きいですが、基本的なベースは変わりません。
また政治情勢は刻々と変わっていきますが、地理情報は大きな変化がすることがありません。したがって、地理情報をベースに考えるとことで、普遍的な思考が国際情勢に対して出来ることも利点の一つでしょう。
どの城をどの順番でどうやって攻略するかにおいて、地理的情報は必要不可欠!
四国の長宗我部家で初めて中国地方に進出したいなら、まずは河野家を攻略して港を奪取しないと、かなり攻めづらいよね
前提確認)日本の石油事情
それでは、早速地政学をつかって国際情勢を見てみましょう。今回のテーマが石油なので、まずはその現状の確認から。
石油の利用用途
日本は一体何に石油を使っているのでしょうか。実際に割合を見てみると、日本は石油の約4割を熱源、4割を動力源、残りの2割を原料などに利用していることが分かります。
熱源 | 42% | 火力発電、家庭やビルの暖房等 |
動力源 | 39% | 自動車、飛行機、船の動力 |
原料 | 18% | プラスチック、タイヤ、化学繊維 |
これらが無くなったら、どうなるか。ちょっと考えただけでも、相当なダメージを日本経済に与えることが分かります。
熱源としてであれば、現在石油は日本のエネルギー割合全体の4割ほどを占めています。ものすごく乱暴なまとめになりますが、石油が日本から無くなると、
- 使えるエネルギーが6割になる
(スマホの充電は6割まで、部屋の明るさも6割、エアコンが使える時間も6割) - 交通手段は徒歩と自転車のみ
- プラチック製品が利用禁止に
上記のような生活水準になります。
あくまで、イメージしやすく書いているだけで、実際はその通りになるわけではないことに注意してね。とはいえ、日常生活に絞って考えてみても、僕たちに与える影響が計り知れないことは確かだよ
プラスチックだけに焦点を当てててみても、私達の身の回りでプラスチックを見ない日はありません。
それらが無くなった生活を考えてみてください。各種プラスチック製品の製造が滞るため、原料費が高騰するので、今では150円ぐらいで買えるペットボトル飲料は数千円の値が付くみたいな世界になっているかも知れません。
実は、日本は「利用可能な石油が少なくなる」という状況を既に経験しています。それがかの有名なオイルショックです。既に過去の日本において、実際に石油が少なくなったときに日本経済が大打撃を受けた時があったのです。
具体的にどんな混乱をきたしたのかは、下記の経済産業省の記事をごらんください。
日本の石油は 99.7% を輸入している
では、そんな必要不可欠な石油をどうやって日本では確保しているかというと、それは「輸入」です。
2019年の日本の原油の輸入先を見ると、ほとんどが中東の国で占められている事がわかります。
おおよそ9割近くが中東の国によって占められていますね。
ここまでの情報であれば、皆さんも既に知っているかも知れません。そこで今回は、もう少し深く「地理」の視点を交えて考えてみたいと思います。
石油の輸入ルート
さて、ここからさらに一歩進めましょう。ここからは習ったことがある人のほうが少ないところです。
輸入しているということはつまり、その国からいずれかの方法で日本に運ぶルートがあるということです。
日本はどういったルートで石油を輸入しているのでしょうか?それを表したのが下記の図です。
現在メインで使われているルートは「マラッカ・シンガポール海峡」ルートですが、もう一つ代替ルートとして「ホルムズ海峡」ルートもあります。
さて、みなさんがもし日本の経済に大打撃を加えてやろうと思ったときに、どこを攻めるのが効率良さそうでしょうか?(是非ルートを見ながら考えてみてください)
よく見ると、輸入経路において何点か重要な箇所があることが分かります。具体的に丸を入れてみたのが下記の図です。
海上で襲うことも考えられますが、それよりも補給路や狭い所を狙ったほうが効率がいいのは間違いないでしょう。
ここを封鎖されるだけで、日本経済は大打撃を受けます。一応オーストラリアを回る「バス海峡・南太平洋」ルートも残されていますが、時間がかかりすぎるため、実際には使えないでしょう。
まさに日本の生命線とも言えるべき場所がここにあるということです。
実際に襲撃事件は今も起こっているんだ。決して架空の話じゃないんだよ(下記は2021年7月の記事)
誰が輸入路の地理的安全を保っているか
輸入経路を見ると、非常に多くの国のそばを通過していることが分かります。中にはまだ政情が安定しない国も多数含まれています。では、だれがその経路の安全を確保しているのでしょう?
それは「アメリカ」です。
2015年の情報なので少し古いですが、当時の米軍基地とその規模を表したのが、下記の図です。
見事に石油ルートにおいて重要なところに拠点があることが分かります。
日本目線では石油でしたが、当然世界的な戦略視点でも重要なため、そこに拠点を構えているわけですね。
もし興味があれば、他の国の国外駐屯地をアメリカと比べてみてください。アメリカが世界の警察と呼ばれる理由が分かると思います。
今後注目する点
以上、地理的に見てきましたが、ここから将来どういった点に注目するといいかも分かります。例えば、下記に具体的に上げてみました。
- 輸出入ルート上にある各国の政治情勢
- アメリカの軍事情報(撤退や縮小、増強など)
- 新しい石油技術の進捗(新規石油の貿易相手候補)
- 代替可能エネルギー情報(輸出依存からの脱却)
今後はこういった事柄に関連する情報を目にしたときに、多面的に捉え、自分ごとで考えられるようになるでしょう。
そうして初めて世界を跨いだ視野と深い視点を得ることになるのです。
まとめ:情報は組み合わせて使う
以上、地政学から日本の石油について考察してみました。
ここでポイントとなるのは、地理の知識があるだけでは、いまいち有用な情報にならないことです。
今までだったら、アメリカでの「シェール革命」(地下約2,000メートルのシェール層に閉じ込められた天然ガスを掘削する技術革新)など、気にもとめないニュースだったでしょう。けれども、今回の情報を持っていると、
「あ、石油の製造がアメリカで出来るようになるってことは、いずれアメリカから輸入が本格化するかもしれない。そうすると、日本としては中東頼りの経済からリスクを下げられるかも知れない。ただ、輸入経路が変わるから、戦略的優先度が高い国や拠点が変わりそうだ」
と、推察することが出来ます。頭に単一的な知識を入れているだけでは、有用な知識になりません。知識を組み合わせることで、初めて意味があります。
みなさんも今後、色々な知識を学ぶと思いますが、決して単一の情報として得るのではなく、他の事にも結びつけて考えていく習慣を身につけてほしいなと思います。
情報は、組み合わせてこそ真価を発揮するよ!最後に、地政学について興味を持ったら、この書籍を読んでみてね。他にも北方領土や中国の海洋進出の理由についてもわかりやすく説明されているよ