こんにちは、ぺそです!今回は、前回の続きということで、「等比数列で「ユーザーがサービスを利用する平均期間」を計算する(後編)」になります。
前編をまだ見ていない方は、こちらをご覧下さい。
それでは、早速本題に入っていきましょう。
平均利用期間を計算するために、解約率を使う
前回の最後で、サービス開始直後等では、実数値の平均利用期間が使えないことが分かりました。そこで注目するのが「解約率」です。
定額制のサービス(サブスクリプション)であれば、毎月ユーザー数が増減するため、そのときに「先月のユーザーのうち、今月は使わなくなったユーザーはどれくらいだろう」というのを割合で出すことができますよね。
仮に今がサービスを開始して 3ヶ月目だとして、下記のように最初の月に登録していたユーザーが現在どれぐらい残っているかを場合を考えてみましょう。
利用期間 | ユーザー数 |
0ヶ月目 | 100人 |
1ヶ月目 | 90人 |
2ヶ月目 | 81人 |
3ヶ月目 | 73人 |
解約率を計算すると月の解約率が 10% だということが分かります(勿論、毎月同じ解約率になることの方が少ないと思うので、その場合は平均を取るのがいいでしょう)。そうすると、以後の予測として、
利用期間 | ユーザー数 |
0ヶ月目 | 100人 |
1ヶ月目 | 90人 |
2ヶ月目 | 81人 |
3ヶ月目 | 73人 |
-(予測)- | -(予測)- |
4ヶ月目 | 66人 |
5ヶ月目 | 59人 |
6ヶ月目 | 53人 |
… | … |
nヶ月目 | 0人 |
となることが想像できますよね。また各月の差分を取れば、ユーザーがどれだけの期間このサービスを利用したかが分かります。例えば
- 1ヶ月間利用した人は 10名
- 3ヶ月間利用した人は 8名
- 6ヶ月間利用するであろう人は 6名
※ 「◯ヶ月以上/以内利用した」ではないことに注意してください。
と予測することができます。
利用期間 | ユーザー数 | 解約ユーザー数 |
0ヶ月目 | 100人 | |
1ヶ月目 | 90人 | 10 |
2ヶ月目 | 81人 | 9 |
3ヶ月目 | 73人 | 8 |
-(予測)- | -(予測)- | -(予測)- |
4ヶ月目 | 66人 | 7 |
5ヶ月目 | 59人 | 7 |
6ヶ月目 | 53人 | 6 |
… | … | … |
nヶ月目 | 0人 | ? |
毎月の利用期間は、等比数列になる
今回は 1ユーザーあたりの平均利用期間を知りたいので、解約ユーザー数 × 利用期間の毎月分の合計を初期ユーザー数で割れば、平均利用期間が出せそうです。
さて、解約ユーザー数を計算するために、前の月のユーザー数に 10%(解約率)をかけて求めました。その次の月も同様です。そして、その次の次の月も。延々と解約率を前の月にかけているんです。
はい、もうお気づきになられましたかね?これは等比数列ですね。それが分かりやすくなるように表に一列追加すると、こうなります。
利用期間 | ユーザー数 | 解約ユーザ数 | 解約ユーザー数計算方法 |
0ヶ月目 | 100人 | — | — |
1ヶ月目 | 90人 | 10 | 100×10% |
2ヶ月目 | 81人 | 9 | 100×10%×10% |
3ヶ月目 | 73人 | 8 | 100×10%×10%×10% |
-(予測)- | -(予測)- | -(予測)- | -(予測)- |
4ヶ月目 | 66人 | 7 | 100×10%4 |
5ヶ月目 | 59人 | 7 | 100×10%5 |
6ヶ月目 | 53人 | 6 | 100×10%6 |
… | … | … | … |
nヶ月目 | 0人 | (右の結果) | 100×10%n |
※ 予測部分は四捨五入
つまり、解約ユーザー数出していく作業は、初項 100、公比 90% の等比数列を求める作業と一緒だったわけです。まとめると下記にようになります。
「初項(初期ユーザー数)、公比(解約率)の等比数列」=「毎月の解約ユーザー数の数列」
最終的には非常にシンプル!「平均利用期間 = 1/解約率」
続いて、解約ユーザー数 × 利用期間を表の一番右に埋めてみます。
利用期間 | ユーザー数 | 解約ユーザー数 | 解約ユーザー数計算方法 | 延べ利用期間 |
0ヶ月目 | 100人 | — | — | — |
1ヶ月目 | 90人 | 10 | 100×10% | 1×100×10% |
2ヶ月目 | 81人 | 9 | 100×10%2 | 2×100×10%2 |
3ヶ月目 | 73人 | 8 | 100×10%3 | 3×100×10%3 |
-(予測)- | -(予測)- | -(予測)- | -(予測)- | -(予測)- |
4ヶ月目 | 66人 | 7 | 100×10%4 | 4×100×10%4 |
5ヶ月目 | 59人 | 7 | 100×10%5 | 5×100×10%5 |
6ヶ月目 | 53人 | 6 | 100×10%6 | 6×100×10%6 |
… | … | … | … | … |
nヶ月目 | 0人 | (右の結果) | 100×10%n | n×100×10%n |
ここまでくれば、一番右端の式を合計して、初期ユーザー数の 100で割れば、平均利用期間が晴れて出すことができます!実際の式は、
(1×100×10% + 2×100×10%2 + 3×100×10%3 + … + n×100×10%n )/100
となります。ただ、全ての項に 100 があるので、これは割ってしまいましょう。
(1×10% + 2×10%2 + 3×10%3 + …. + n×10%n )/100
かなり、シンプルになりましたね!ただ、ここから先を計算するには、少し数学知識が必要です(残念ながら n が無限になってしまうからです)。ですが、高校生であれば、等比数列の和を極限記号 lim を用いて算出できると思いますので、ぜひトライして見ください!…そして、実際に計算すると驚くべきことに、
平均継続期間 = 1/10%
となります。より一般的に表すと、
平均継続期間 = 1/解約率
あれだけ色々やってきたのに、非常にシンプルな式になりましたね。つまり、今回の例では、1/0.1 で 10ヶ月が平均利用期間になるわけです!解約率さえ分かれば、将来の平均利用期間が分かるなんて、ちょっと不思議ですよね。
例題の「芸能人とコラボしたほうが良いか?」に対する数学的回答
では、例題に戻りましょう。
"最近 Youtube で動画投稿を始めたあなたは、かなり順調に登録者数を稼ぎ、半年たった今では 5000人になりました。視聴者数も伸び、さらに視聴者に良い動画を届けたいと思っています。そんなとき、ある有名な芸能人とコラボする案が出てきました。とはいえ、向こうは芸能人で、ゲストとしてお呼びするには 10万円かかります。"
ここで判断を下すには、視聴者数のチャンネル解除率(解約率)が必要ですね。仮に毎月5% だったとしましょう。そうするとあなたのチャンネルは平均して 20ヶ月間お気に入り登録がされていることが分かります。
次に一人あたりの動画広告収入を算出しましょう。これはその月の広告収入 ÷ チャンネル登録者数で計算できますね(もちろん、視聴者数と登録者は必ずしも比例するわけではありませんが、ここでは確実な事実より、判断に必要な情報が出れば良いので、登録者数で計算します)広告収入が 毎月6万円だとして、5000人で割ると、一人あたり 12円になります。
もう一歩頑張りましょう。一人の登録者数から 12円毎月収入があることがわかったので、これに先程計算した平均お気に入り登録期間を掛けると、12円 × 20ヶ月 = 240円になります。
さぁ、いよいよ本丸です。これで、あなたのチャンネル登録者の一人あたりの金額的な価値が出ました。さて、今回芸能人は 10万円かかるということなので、10万円 / 240円 = 416名の登録者に換算されます。
つまり、この芸能人とのコラボで 400名近くのチャンネル登録者の増加が見込めるならば、やったほうがいいと言えるわけです。
とはいえ…数字で全ての判断をするのはナンセンス
数学的に今回のケースでコラボしたほうがいいか算出できるのは、ちょっとおもしろいですよね。ただ、ここでさらに大事なのは、「400名チャンネル登録者増加が見込めるかどうかは、数学では分からない」という点です。
チャンネルの特性や登録者の傾向など、数字に現れてこないものもあります。また、あまり登録者数は増えそうでなくても、今後の自身の経験としてコラボしておくことを決定するのもありですし、さらにはその芸能人が自分の憧れの人であったら、こんな計算をせずともコラボするでしょう。
数学的知識は判断材料を集めたり、有益な情報を提供することにはかなり有用です。けれども最終的な価値を保証するものではなく、そこは個人の経験や考え、価値観などが大事だということです。ただ、数学的根拠がないのも、それはそれで振り返りがしづらくなったり、効果が不明になってしまうので問題です。
このように数学と自身のスキルの両方を生かして判断ができるような人は、そうそういません。どちらかだけで判断するのではなく、両方のバランスを取りながら取捨選択できるようになると、社会に出ても非常に役に立ちますよ!