今までみなさんは国語の授業を通して、数多くの小論文や小説を読んできたことでしょう。しかし、その全てに興味を持って読むことはできなかったと思います。
自分が読んでいて面白い話であれば、自然と身が入り、読書にも熱が入ります。しかし、興味がないとついつい斜め読みになってしまい、頭に全く内容が残っていないことも珍しくありません。
残念ながら、社会人になると、自分が興味がある分野の情報だけを取り入れるだけでは足りません。業務に必要な書籍や、経済ニュース、他社の業績状況などなど。こういった情報は興味があろうとなかろうと摂取する必要が出てきます。
そこで、今回はそういった自分の興味が持てない書籍をどの様に捉えて、どう読めばいいのかについて解説します。
興味がないからといって、なにも知識が吸収できなくなるのは、もったいないからね。どういった点を意識して読書するかについて、ぜひ参考にしてほしいな
そもそも、なぜその本に興味が湧かないのか
基本的に書籍は編集者などの第三者目線でのチェックが入っていますから、文法がおかしい、誤字脱字がひどい、などの初歩的な読みづらさはかなり低くなっています。
それでも、自分の興味が湧かない書籍がたくさんあるのは事実です。なぜ興味が湧かないのか。その理由は大きく分けて2点あります。
① 共感できない
一つ目は「感情移入できない」という点です。例えば、
「そんなこと思うの?主人公の言動が自分と違いすぎて、良くわからない」
「なんでそうなるんだろう?筆者の言っていることが、自分の考えと違いすぎる…」
と思ったことはありませんか?大丈夫です。自分もたくさんあります(笑)
読書に出てくる筆者の意見や登場人物たちに共感できないと、スッと読書に没入するのは難しくなります。なぜなら、読むたびに自分との相違が出てくるので、そのたびに躓いてしまい、読書が中断されてしまうからです。
これでは、本に興味を持つことは難しく、読書していても身が入らないのは当然でしょう。
② 自分の役に立たない
二つ目は「内容がどのように自分の役に立つかわからない」という点です。これは小論文やビジネス書を読むときに、特に感じやすいと思います。
例えば、次のような感情です。
「歴史的にはそうかもだけど、今と状況違うからな」
「こんなことができるのは、その環境だからだよ。自分の環境とは違いすぎる」
何の役に立つかわからない時間を過ごすのは苦痛ですよね。ネットニュースや SNS などの情報も一緒のように感じますが、読書は自分から学びにいくという点が大きく違っています。
ネットニュースや SNS に対して、本気でその内容に向き合って、「これはどう自分の役に立つか」と考えている人はほとんどいないでしょう。(もしそういう人が大多数なら、不倫系の記事はほとんど役に立たないので、もっと減るでしょうしね)
逆にいえば、みなさんが思う以上に、みなさんは読書に対して真剣に向き合っているということです。
だからこそ、役に立たないと思うと、途端に読み進めることが難しくなってしまうのです。
「自分から書籍に歩み寄る」と、世界が広がる
こういったときに大事なのは「自分から書籍に歩み寄る」ことです。具体的には次のように。
具体例は後ほど書くとして、そもそもなぜ自分から歩み寄ることが重要なのでしょうか。
それは、自分の視野の拡大になり、相手の立場を理解し、物事を進める点で非常に有意に働くからです。
当たり前ですが、私たちは一人で生きているわけではありません。学校でも家庭でも、はたまた社会に出ても数多くの人と関わって生きていきます。自分は一人で生きているつもりでも、自分が受けている恩恵や影響などは、色々な人が関わって自分の元に回ってきたものばかりです。
そのため、相手に寄り添うというのは、非常に大きな意味を持ちます。それは相手のためだけではなく、むしろ自分にとって非常に重要なのです。
では具体的な「書籍に自分から寄り添う」利点を、次の三つの例で見てみましょう。
例)開発への機能提案が一向に進まない理由
例えば、あなたが商品開発プロジェクトに参加した営業部だとしましょう。そこでは今売っている商品にどんな追加機能をすれば、開発を交えて話し合うことにしました。
あなたは必死に「こういう機能が今お客様に求められている」「逆にこういう機能があまり使われていない。ここが使いづらいからだ」と今までの実務経験と綿密な市場分析をもとに、数多くのアイデアを出しました。
しかし、開発からの返答は芳しくありません。
「それは今の工数(作業完了までに必要な時間と人数)ではできない」
「そもそもその機能はそのように使うものではない」
「むしろ、きちんと顧客に使い方を伝えていないことが問題だ」
などなど。
ここで「開発は営業の大変さを分かっていない」「顧客と実際に会っていないから、そんなことが言えるんだ」などと思ってしまうのも無理からぬことでしょう。最後には「そもそも開発側はやる気がないんだ」と感じて、意気消沈してしまいます。
さて、ここで諦めるのではなく、相手から自分に近づいてみましょう。なぜ開発は断っているのでしょうか?そもそも開発はどんなタスクを今抱えていて、どういう優先順位で動いているのでしょうか?彼らは何をやりがいに仕事しているのでしょうか?
これらを知らないと、相手目線に立った会話ができません。このように、相手を理解するためには自分からその方向に寄っていく事が必要です。
逆の立場で考えてみても、もし相手(開発側)が次のように寄り添った形で聞いてくれたら、きっと同じ結論でも感じ方は違うはずです。
「それだけ営業は顧客からの厳しい言葉をかけられて、大変なんですね」
「その新規機能を使って顧客が叶えたい本当の要望は何だろう?知見を教えてもらえる?」
会話であれば、双方が共に近づくことができます。そういう意味では、一方的に自分が筆者に合わせないといけない読書の方がレベルが高いかもしれません。
一方、読書の良い点もあります。それは、時間を十分に取って相手の思考を吟味することができる点です。
通常のコミュニケーションでは即時の思考と会話が求められますが、読書ならば時間をとってゆっくりと考えることができます。
まずは自分のペースでできる読書でその力を鍛えておくことは、円滑なコミュニケーションという点で非常に役に立つのです。
即時の会話では発揮できなかったとしても、最近はメールやチャットなど、テキストで仕事することも多くなったんだ。だからこそ「相手を理解するために寄り添う」力は色々なところで有効に使えるんだ。
例)他部署の情報を知るには、上司の許可が必要な会社
次の例は、自分が読んでいた書籍からの紹介です。
ある会社に通いはじめて3週間目のこと。そろそろ何か自分なりのプランを提示しようと考え、そのために社内の情報を集めはじめました。ちょうどそのころ、中国のマーケットが気になっていたのでアジア地区担当の部署に行き、自分と同世代の社員に「いま、この会社は中国で何を主力商品として売っていて、セールスの状況はどんな感じなんですか?」と本当に軽く聞いてみたのです。すると彼は、「そういう話は、上司を通してもらわないと困るんですよね」と完全に拒絶です。(中略)私が知らなかっただけで、その会社には「他部署の情報を得るには、自分の部署と相手の部署、双方の上司の許可が必要」という暗黙のルールがあったようです。そのルールを破ったばかりに、私はアジア地区担当の部長にはもちろん、私の業務の担当の部長にも「勝手に情報収集しないでくれ」と厳しく注意されてしまったのです。
「転職1年目の教科書」より
幸いにも、今私がいる会社はかなり風通しがいいので、こういったことは起こりません。この書籍では、続けてこういった環境ではどうやってコミュニケーションすればいいのかを紹介しているのですが、ここで「全く環境が違うから、役に立たないな」と思ってしまうと、もったいないです。
今回の話は、筆者の実体験が書かれています。つまり、そういった会社が社会に存在していることは間違いないのです。
さらに書籍のタイトルが「転職1年目の教科書」となっていることから分かる通り、これは転職の時に役に立つ本です。
いますぐ転職する予定はありませんが、いざ自分が転職して、こういった会社に入った時にこの知識は役に立ちます。このカルチャーギャップを知った対応が取りやすくなるからです。
みなさんであれば、「まだ就職もしてしないし・・・」と思いますか?いえ、この知識は就活の時にも役に立ちます。もし、風通しのいい会社に勤めたければ、上記のような会社を選ぶことを頭に入れて選択ができるからです。
自分が知識として知っていれば、選択するときに注意できますが、知らなければ注意のしようがありません。
例えば、賃貸は原則ペット不可であることを知っていなければ、わざわざペットが飼えるかどうか確かめることなんてしません。結果、住んでから余計なトラブルを生んでしまい、場合によっては退去することを求められてしまいます。
このように、こういった知識を持っておくと、自分の将来の選択にも役に立つことが多々あります。
そのためには「今の自分には役に立たない」と、書籍に自分と同じ状況を求めるのではなく、「将来、こんな時に役に立つかもしれない」と、自分を書籍の状況に近づけることが必要なのです。
例)西野カナの「トリセツ」から紐解く女性心理
ちなみに、この力を身につける方法は読書じゃなくてもできます。例えば、少し前ですが、西野カナさんの「トリセツ」という曲がヒットしました。
この曲では、女性目線でどのようにパートナーに自分を扱ってほしいかを歌った曲なのですが、男性側からすると…正直かなりめんどくさい人に見えます(笑)
ここで曲を知らない方のために、歌詞に出てくる要望をまとめてみました。
自分なんかは、ハードルが高すぎてここに出てくる要望を全て叶えるのは、無理だと思ってしまいます。
しかし、もう一歩考えを深めてみると、面白いことが見えます。
まず、この曲がヒットしたのは事実です。ということは、メロディーと歌唱力の素晴らしさはもちろんですが、歌詞に共感した女性が多くいたことも間違いないでしょう。
ということは、大なり小なり、この歌詞は女性の気持ちを的確に表しているということです。
普段は「調子乗るな」と言われそうで言えない気持ちであったり、綺麗事だけではない女性側の素直な気持ちを歌ったことが、この曲のヒットに繋がったのだと推測できます。
だからこそ、等身大の歌詞が多くの女性の共感を得たのでしょう。西野カナさん本人もインタビューで次のように述べています。
「トリセツ」を作るときは、ただ“好きです”とか、“あなたのそばにいたい”という気持ちを伝えるんじゃなくて、もっと女の子のリアルを表現したいなって思ったんです。女の子の独り言の中に、ちょっとしたコミカルさや可愛さ、愛情表現としての嫌味っぽい部分とか……。カップルの会話の中で、“言いたいことを可愛く言う”みたいな歌詞を書けたら面白いな、と思ったんです。
「トリセツ」でも、<急に不機嫌になることがあります。 理由を聞いても答えないくせに放っとくと怒ります。>って歌詞がありますけど、そのあとの<いつもごめんね。>が言えるか言えないかで二人の関係は全然違ってくる。昔、私のおばあちゃんがよく言ってたんです。「夫婦が上手くいくコツは、ものの言い方次第だよ」って。自己主張するのは仕方がないけど、その後にひと言、「ごめんね」とか「ありがとう」とか添えるだけで全然違う。だから「トリセツ」には、おばあちゃんの教えも含まれているんです(笑)。
引用:ORICON MUSIC – オリコン1位の西野カナ、アルバムと女性心理を語る 「トリセツ」は“おばあちゃんの教え”から生まれた?
こうやって筆者の作成背景を知ると、また捉え方も変わるから不思議だね。確かに「なんで構ってくれないの!!」とか責められたり、無言で不満を溜められるよりかは、「ごめんね」とか一言添えられた方が嬉しいよね。
ここで注意点があります。いくら女性の共感を集めたとはいえ、この①〜④全てをする必要があるのかというと、それはまた別だというです。
みなさんも好きな曲がいくつかあると思いますが、必ずしも歌詞の一語一句全てにおいて完全な共感をしていないと好きになれないわけじゃないですよね?
それと同様で「共感を呼ぶ歌詞が多いこと」と「全ての歌詞が共感されていること」とは、全く違います。
したがって、プレゼントに迷ったら手紙を検討してみたり、かっこいいエスコートは出来ないかもしれないけれど、愚痴や悩みを長い間聞くために寄り添ってあげたり。
自分が好きになった相手と長い時間共に過ごすために、「どういうことを相手は喜ぶかというヒントが歌われているんだな」という観点で考えれば、歌詞に寄り沿って学ぶことは可能なのです。
[まとめ] 共感できなくても、理解することはできる
いかがだったでしょうか?私たちはついつい共感に重きを置きすぎてしまう傾向があります。
しかし、共感できなくても理解することはできます。このことを忘れなければ、共感力だけでなく、理解力も読書で向上していくでしょう。
ただし、注意点があります。それは、あまり無理して色々な本を読みすぎると、読書そのもの自体がつまらなくなってしまうことです。
興味の輪はゆっくりと広がっていきます。ですから、最初は自分が興味を持てた話や分野から始めて、そこから少しずつ広げることを意識しましょう。
まずは、少しずつ自分を書籍に近づける意識をしていくことから始めよう!頑張って急にやりすぎて読書自体が嫌いになっちゃったら、それこそ勿体無いからね。