「土曜は丑の日」に学ぶ!マーケティングから始まった風物詩

社会

 みなさん、夏に食べるものと言ったら何を思い浮かべますか?

 スイカ、そうめん、焼き鳥・・・かき氷なんかもいいですね。今回はその中でも「鰻(うなぎ)」について取り上げます。

 鰻といえば、今ではすっかり夏の風物詩になっていますが、実は鰻を夏に食べるようになったのは、昔の人のマーケティングの工夫が隠されていたのです。一体どういうことなのでしょうか?

 今回は「鰻」をテーマに、昔の人の知恵とそこから学べることについて見てみましょう。

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元々、夏のうなぎは不評だった!

 鰻についての謎を紐解くために、時代をまだ夏に鰻を食べることが定着していなかった江戸時代にまで遡りましょう。

 当時はまだ鰻の養殖は行われていなかったので、取れる鰻は全て天然のものでした。

 天然の鰻は12月頃には冬眠に入るため、10月頃からそのための栄養を蓄える時期に入ります。従って、もっとも美味しいのも、晩秋から初冬にかけての時期になります。

 そのため、夏にとれる鰻は冬のものに比べると、栄養が含まれておらず、あまり人気が無かったのです。

 では、そんな鰻がなぜ「夏の代名詞」と呼ばれる存在になったのでしょうか?

ぺそ
ぺそ

鰻の養殖は明治に入ってからだから、それまでは夏にとれる鰻はあんまり嬉しい存在じゃなかったんだね。そこからどんな大逆転があったんだろう?

語呂合わせを使ったマーケティングで、一躍大ヒットへ

 なぜ、夏に鰻が食べられるようになったのか。それを紐解くために、まずは「土用の丑の日」という言葉を知らなければなりません。

「土用の丑の日」とは?

 「土用」というのは、昔の暦での呼び方で、季節の変わり目である立春、立夏、立秋、立冬の前の18日間を指します。

 この「土」というのは、中国の「陰陽五行説」が由来で、その中では、万物が「木火土金水」の5要素で成り立っているとされています。

 この5つの要素を季節(春夏秋冬)にそれぞれあてはめた時に、

  • 「木」→ 春🌸
  • 「火」→ 夏🍉
  • 「金」→ 秋🍁
  • 「水」→ 冬☃️

となり、「土」が余ってしまいました。そこで、この余った「土」を使って、それぞれの季節の変わり目を表現したのです。

 さらに、昔は日にちも十二支(子[🐀]・丑[🐄]・寅[🐅]・卯[🐇]・辰[🐉]…)の繰り返しで呼んでいました。

 つまり、「土用の丑の日」とは季節の変わり目の中に来る特定の日を指す言葉で、年に複数回あることがわかります(ちなみに夏の土用の丑は、大体7/20〜8/6に来ることが多い)

 「土用の丑の日」自体は昔の日の数え方なので、現在はほとんど使われていませんが、夏の鰻の売り文句としてだけは聞いたことがあるかもしれませんね。

 これが、実は重要なポイントなんです。話を江戸時代に戻しましょう。

 先ほど見たように、夏の鰻は庶民には不人気でした。そこで、うなぎ屋の店主は「どうすれば夏でも鰻が売れるようになるのか」を、知恵に優れた平賀源内に相談しました。

平賀源内。江戸時代の発明家で、日本初の万歩計などを開発(画像元;文庫08 A0256 平賀源内肖像 / 中丸精 写

 平賀源内は店主に「夏には丑の日がある。この丑の日にあやかって『う』のつくものを食べると縁起がいいと銘打って、鰻を売り出すのはどうか?」と提案しました。

 それを聞いた店主は「本日土用丑の日」という張り紙を店の前に張り出したところ、この語呂合わせが功を奏して、鰻が大ヒットしました。

 それ以後、現代に至るまで、「夏にはうなぎを食べる」という習慣が定着したのです。

なぜ、ただの「語呂合わせ」がヒットにつながったのか?当時の人の顧客心理を理解する

 これで夏の鰻の謎が解けましたね。せっかくなので、この話から今でも通用する学びはないかを考えてみましょう。

 元々はただの語呂合わせだったこの手法。なぜ、それだけでうまくいったのでしょうか?語呂合わせをすればいいだけなら、こんな簡単なマーケティングはないはずです。

 ここで、鍵となるのが当時の顧客心理との合致です。そこで、まずは「土用の丑の日」というのが、当時の人にとってどんな印象を持つ日だったのかを知りましょう。

心理①「土用」の中でも、夏がもっとも危ない

 今でもそうですが、夏は暑さで人の体調が崩れやすくなりますよね。暑いために水場での事故も多いですし、当時の生活環境や医療体制から考えても、疫病が流行りやすい時期でもあります。

 ですから、この夏の「土用」に対しては、顧客は良いイメージを持っていなかったことがわかります。

心理②「土用」と「丑」の組み合わせは、縁起が悪い

 先ほども出ていた「五行」の考え方で、「丑」は水を表すとされています(諸説あり)。この水と土は相性が悪いとされ、合わさってしまうと、土砂崩れなどの災害を呼ぶと言われています。

 つまり、土用丑の日とは土用の日のなかでも相性が悪く、当時の人からはあまり好ましい日では無かったんですね。

ヒットの裏側にあるのは、当時の顧客心理を解決したマーケティング

 そこで、登場するのが平賀源内が助言した「縁起物」としての鰻です。

 丑の日には鰻を食べようというのは、非常にシンプルですが、実は先ほど見た二つの顧客心理を見事にカバーしていたことがわかります。

顧客心理との合致

体調を崩しやすいなら、精の出る鰻を食べよう!
縁起が悪いなら、「う」がつく縁起の良い鰻を食べよう!

 このように、顧客心理を理解したからこそ成功したマーケティング事例は、現代にも無数にあります。

 そのうちの一つが、冬に食べるアイスとしてその地位を確立した「雪見だいふく」です。そちらについては、別の記事で取り上げているので、興味があればぜひ読んでみてください。

ぺそ
ぺそ

バレンタインや、29(肉)の日、とか、今でも行事との掛け合わせや語呂合わせがあったりもするよね。他にもたくさんあると思うから、ぜひみんなも考えてみてね!

まとめ:過去から学び、知識を組み合わせ、大きな価値へ

 いかがでしたでしょうか?今は昔と違ってそれほど縁起を気にすることは無くなりました。なので、同じ縁起を担ぐことで大ヒットというのは、難しいかもしれません。

 しかし、商品やサービスによってどういったものを顧客が気にしているのかは非常に重要です。価格や品質という当たり前のこと以外にも、「科学的に実証されているか」「口コミはいいか」など顧客心理は多岐にわたります。

 一見関係がなさそうに見える「夏には不人気の鰻」と「縁起」という二つを組み合わせることで大ヒットが誕生したように、みなさんの周りにもそういったヒットを生むような組み合わせが隠れているかもしれません。

 ぜひ過去の事例から何を学べるかに着目しながら、身近な由来や歴史についても興味を持ってもらえたらなと思います。

ぺそ
ぺそ

あの有名なスティーブ・ジョブスも、大学の時にこっそり忍び込んで聞いたカリグラフィーの授業が、後のフォントの誕生に関わるなんて思っても見なかったからね

 

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