#3 「価格」設定が難しい3つの理由(高校生のためのビジネス基本解説) 

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 前回は、ビジネスの原則とも言える「需要と供給で決まる価格」について解説しました。しかし、現場に出ると、この「価格決め」が非常に難しいことがわかります。

 そこで今回は、なぜ価格決めが難しいのかについて解説しようと思います。

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価格決めが難しい理由3選

理由①:市場価格は平均を表しているだけに過ぎない

 結論から言うと、市場価格というのは、あくまで全体を表しているだけなので、個々のサービスの値付けには参考にしづらいのです。

 例えば、みなさんが大学で支払う学費について調べてみましょう。文部科学省が出している「私立大学等の令和2年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」に、公立/私立、それぞれの平均値が出されています。

(令和2年)公立大学私立大学
入学料392,111円247,052円
授業料536,382円927,705円

 これが大学に対する市場価格になります。

 公立大学に関しては、文部科学省令によって標準額が決められているため、市場価格とは呼びづらいです。一方、私立に関しては、各大学の裁量範囲が広いため、授業料93万/1年が一般的な私立大学の市場価格と呼んでも間違いはないでしょう。

 では、新たな大学が創設されたとして、年額の授業料が200万円だった場合、これは適正でしょうか?

 あくまで、市場価格と比較するならば、適正とは言いづらいですね。通常の2倍の価格がするわけですから。

 しかし、みなさんもこれが正しい判断基準ではないことがわかるでしょう。

 例えば、医学部と文学部では同じ私立大学であっても、全く金額は異なり、数倍以上違うことが当たり前です。それに加え、大学の立地、卒業後の就職率、実習費の別途費用等々、数多くの要素が価値に影響しています。

 このように、市場価格は確かに参考になりますが、あくまで全体平均を表しているだけなので、それだけで適正な値付け価格をすることはできないのです。

立地条件や設備、教員レベル等々。大学と一口に言っても、提供価値は多岐に渡る
ぺそ
ぺそ

例えば、ガソリンみたいにどこが提供しても、機能も質もほぼ変わらないようなものであれば、市場価格は参考になるけれど、個々のサービスが異なっているようなビジネスだと、なかなか参考にしづらいんだね。

理由②:参考とするべき価格が存在せず、顧客自身も価値を知らない

 先ほどの例では、まだ学部や立地など、条件面からある程度の価格幅を探ることができました。

 しかし、現実世界では、そうではありません。新しいサービスの場合、顧客すらもその価値を知らないため、参考にするべき価格を探すこと自体が難しいからです。

 例えば、PUBG(PlayerUnknown’s Battlegrounds)というゲームのモバイル版について考えてみましょう。

 このゲームは、最大100人のプレイヤーがフィールド内にある装備や地形を利用し、最後の1人になるまで戦うバトルロワイヤル型のゲームです。

マップ上にいるユーザーの中で生き残りをかけて戦う ©︎PUBG

 今まではゲームを販売するときは「パッケージでいくら」というのが一般的でした。また、ソーシャルゲームでは強い武器はガチャで手に入れるというガチャ課金もあります。

 しかし、このゲームではガチャで強い武器が出てしまうと、課金者と無課金者で大きな差ができてしまい、ゲームバランスが崩壊してしまいます。

 さらに、こういったバトルロワイヤル型のゲームでは、参加人数がすぐに集まることが重要です。したがって、できるだけ多くの人に遊んでもらう必要があります。

 つまり、課金者の立場から考えても、無課金でもいいからたくさん人が集まって欲しいのです。そうしないと、全然人が集まらないゲームになり、楽しさが半減してしまうからです。

 では、どこで課金しているのでしょうか?PUBGではスキンという形で課金をしてもらうことをメインに据えたビジネス形態を取りました。

 今でこそ見慣れた形ですが、当時はまだスキンという「ゲームに直接的には有利不利が働かない要素」にどれだけ人が課金するのか、ほとんど情報はありませんでした。

 また、顧客がどれだけスキンにお金を払うかもわかりません。スキンにどれだけの価格を設定するべきなのかといった情報は、世間には出回っていません。

 したがって、市場価格を参考にすることはできないので、テストマーケティングなどの市場調査やβ版の提供など、自社で顧客が感じる価値と擦り合わせしていく必要があります。

各種の好みのスキンが、課金で手に入る形態 ©︎PUBG: BATTLEGROUNDS

理由③:サービスが同じでも、価値が一緒だとは限らない

 さらに、提供するサービスが一緒であったとしても、サービス提供の状況によって提供できる価値が異なるケースもあります。

 もし、価値を感じる人にばらつきがあるだけならば、サービスを提供したい人を企業側で選定すれば済みます。しかし、どれだけ対象を絞って、サービスを均一にしようとしても、実際にはバラけてしまうのが実情です。

 ここではスターバックスを例にして、考えてみましょう。

 スターバックスは、ゆったりした空間を顧客に提供していて、ドリンクやフードについても、どの店舗で買っても変わらない味を楽しめます。

 しかし、それでも各店舗には歴然とした差があるのです。

 例えば、スターバックス京都新京極店は、このような居住まいをしています。

引用:新京極商店街より

 これだけでも、通常の喫茶に比べると、非常におしゃれに見えますよね。

 しかし、自分は先日富山県に旅行した際に、富山環水公園の中にあるスターバックスにお邪魔しました。その時の写真がこちらです。

富山県の富山環水公園店のスターバックス
スターバックスから見える風景

 いかがでしょうか?どちらのお店でも、スターバックスが提供しているサービスや価格は変わりません。

 けれども富山環水公園店の方が眺めが圧倒的に良いので、どちらか自由に選べるなら、後者のスターバックスに訪れたいと思うでしょう。

 さて、この時、スターバックス側はどちらの店舗の提供価値を基準に価格を考えればいいのでしょうか?

 前者を基準にして展開するのか、あるいは後者のように周辺環境まで含めた特別感も加味するのか。ビジネス戦略としても色々と考えることが多そうですね。

ぺそ
ぺそ

逆に景観を価格に反映させるケースだと、タワーマンションがわかりやすいよ。間取りがほとんど変わらなくても、上階と下階で数10%も異なるケースも珍しくないんだ。

[まとめ] 値付けに公式はない。だからこそ「自社・顧客・競合」の分析が必要

 以上見てきたように、たとえ市場価格がわかっても、実際に自社のサービスに値段をつける時には、参考にしづらいことがわかりました。

 しかし、重要な要素は何となくわかってきました。最低限3つの要素は考えないといけなさそうです。

 まず、一つは自社です。そもそも、どんな価値を自社は提供できるのか。ここがはっきりしていないと、そもそも検討すること自体が難しいです。

 そして、二つ目は顧客自社が提供しようとしている価値は受け入れられるのか、あるいはそもそも需要があるのかどうか。サービスの提供先が顧客である以上、顧客のことを深く理解しなければいけません。

 最後は他社です。自社と顧客だけでは、周りの状況が見えていません。「顧客に提供しようとした価値が、すでに他の会社によってもっと安く提供されていた」なんて事態になると、大変です。他社がまだ提供できていない価値を届けられるかを考える必要があります。

 この3点は非常に重要なため、これは3Cというフレームワークで整理することがあります。なので、次回はその3Cというフレームワークを見てみましょう。

ぺそ
ぺそ

簡単なようでいて、深く考えると、実は結構難しいことが分かってもらえたと思う。だからこそ、最近ではトライアンドエラーを短期間に繰り返していくアジャイルと呼ばれるような手法が人気だったりするんだ。

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